改めて調べなおしてみると、特に2chやブログ、SNSなど、意外にパーソナルなメディアに於いて松岡先生のオペラプロジェクトが言及されている。
で、当時システムについての検討に深く関わっていた立場としての私見を少しだけメモ的に書き記しておきたいと思った。
だって
「物語OS」というだけテーマ設定だけでも、物凄くエキサイティングだし、10年以上経った今でもユニークな試みであることは変わりが無いから(私がプロジェクトに関わったのは92−93年の間)。
ただ、当時の議事録(私は再度閲覧したことは無いけど、その頃は必ず議論の成果を詳細に残していた)や、今も残っている人工知能学会の論文、あとは弊社刊行による書籍を含んだ出版物など全てを紐解いたとしても、眩暈がするほど遠大で終わりの無いプロジェクトであることは確か。
哲学と文学と宗教学と神話学と美学と情報科学の集大成みたいな内容だから、それもやむをえない。松岡さんはプロジェクトのスタート時に、「
これ以降これと同規模のプロジェクトは無い。後にも先にも一生に一度のプロジェクト」といったようなことを述べられていたし、国内の物語学関係者を総動員して物語学会まで組織したその意欲と執念は半端じゃなかった。
でも、プロジェクトとしてのオペラプロジェクト(=物語OS開発プロジェクト)そのものを語ろうとするとそれこそ途方も無いし、政治的・戦略的に当時の時代背景やリクルートという特別な会社との取り組みについても語り尽くせない気がする。
なので、ことシステムという側面にのみ限って語るとすれば、オペラプロジェクトには幾つかの特徴がある。
1)オペラは、物語の原型によるナビゲーション機能を有したハイパーテキストシステムである。
2)オペラは、デスクトップメタファーを超えるメタファーでコンピュータを扱えるようにするシステムである。
3)オペラは、テキストだけではなくグラフィック表現に於いても物語性を帯びたコンピュータシステムである。
4)オペラは、キャラクターやシーンなどより物語的な意味性を持ったオブジェクトを扱えるようにしたオーサリング環境である。
5)オペラは、物語構造を元に森羅万象をネットワークした意味的データベースを有したコンピュータシステムである。
ざっと挙げるとこんな感じでしょうか?
で、今改めてオペラプロジェクトが現在性を帯びるとすれば、
1)ブロードバンドおよび無線LAN、ケータイインターネットなどの普及によりユビイクタス環境が目前に迫っている。
2)ウェブ2.0の現前により高度なウェブサービスを自在に組み合わせる環境が整備されている。
3)ウェブ2.0の現前により集合知を自動編集するシステム及びビジネスの基礎が整っている。
この3点に於いて
「膨大な集合知を集大成することにより世界各所で多様な物語が生成流通できる」基盤がようやく整った=改めて物語OS的なアプローチが現実味を帯びてきた。ように感じるのです。
つまり、当時は人工知能が解決するであろうと思われたことを、今では集合知の自動編集によって解決できるのでは?と、いう目論見です。
しかし、当時はケータイ・インターネットどころかPCでさえネットワーク化し始めた頃なので、今から考えると市場の動向を全く無視した、暴挙ともいえる先鋭的プロジェクトだと言えるのかも知れません。
だからこそ、現実が追いついたとき、改めて想像力を刺激される未だに新鮮味を持ったコンセプトであると感じます。
参考文献:
「われわれはいかにして物語性を獲得したか Narrative Archetypes and Database 」
http://jsai-kasm.nii.ac.jp/jsai10/articles/titles/a8_3_7.htm