さて、この回で「
ぞりん誕生秘話」完了です。
特にブログ圏で価値がありそうな「
mixi+ロングノーズ論」を思いつく限り書いてみようと思います。まず、今日はその前編です。ざっと出版ツールとしてのmixiをおさらいしてみたいと思います。
『ぞつじ』 copyright takahito iguchi 2006
■mixiという環境の特殊さ
まずSNSというのは、特に現在のWeb2.0トレンドで特にフォーカスされることの多い検索性とかファインダビリティとか言われる分野とは直接関係ありません。
mixiにも幾つかの切り口で情報検索するツールは用意されていますが、ほぼ全て使いづらいですし、余り本格的に役に立つことがありません。
しかも、検索性だけでなく情報経済という面から考えてもマイクロ広告とかコミュニティコマース的な使われ方、あるいは人材マッチング等の仲介サービスなど、ブログ経済圏で様々に活用されている方法論は余り活かされていません。
むしろ、そういう取り組みに対して懐疑的なのでは?と、感じることもあるほどです。
■実例 出版ツールとしてのmixi
でも、その一方で、mixiはかなり幅広くビジネスに活用されています。明示的に広告キャンペーンに活用されたり、Find Job!の集客やマッチングに活用されるなど、分かりやすく目に見える形以外にも、「オフィス探し」「リクルーティング」「商品紹介」「コラボレーション」「マーケティング」「クリエーティブ」「リサーチ」「お見合い」「出版」などなど、非常に多様かつ奥の深い活用のされ方をされている(株式会社ミクシィさんの意向とは余り関係なく)のが現状だと思います。
実際、今使っているオフィススペースもmixi経由。コンサルティングでお手伝いしている会社も一部mixi経由だったり、新規事業でmixi経由のリクルーティングを行ったり。この間購入したハッセルブラッドカメラも事前にmixiで情報収集しました。
そして、『
ぞりん』ですが、これは徹底的にmixiのプラットフォームの恩恵を被っています。
1)
情報ソースとして mixiコミュ『
ぞりん』でぞりんの存在に気が付かない限りこの企画は無かったと思います。
2)
発表スペースとして 『
ぞりん』コミュで作品発表するというプロセスがあったお陰で、この本の下地が出来上がったと思います。
3)
リサーチツールとして 『
ぞりん』コミュではアンケート機能を使って「ぞりん」の印象、受け止め方を幾らか調査することができました(基本的にアンケートはコンテンツとして考えていたので決して本格的なリサーチではありませんが)。
4)
出版エージェントとして 実際には機械的にエージェントの役割を果たしてくれる訳ではありませんが、石黒謙吾さんが最初にオファーをしてくださったのはmixi経由です。
5)
コラボレーションツールとして それほど大げさでもないのですが、スケジュールの確認やサンプルの確認など、メッセージ機能とフォトアルバム機能は役立ちました。本格的なコラボレーションソフトには及びませんが、最低限のことは可能です。
6)
バズマーケティングツールとして これはどの程度影響があるのか本当に未知数です。ただ、日記、アルバム、コミュなどへは逐次情報を掲載しましたし、特に『ぞりん』コミュが口コミの起点としてのエンジンになってくれればと期待をしています。ただ、本当にこの取り組みはデリケートですし、もちろん「逆効果」をもたらす可能性もあるので、まだまだ評価が難しいと思います。
■ロングノーズ論とは?
さて、このように非常に役立ったmixiなのですが、個人的に最も助かったのが日記およびコミュという空間があることで『
ぞりん』制作のモティベーションが継続的に持続できたことです(上の項目で言うと2と5ですね)。
もちろん、最初に火を点けてくれたことと、初期作品の試行錯誤が沢山出来たことはありがたかったのですが(今流行の言葉で言うセレンディピティかも知れません)、やはり何に増しても日々いろんなことを抱えて走っている自分にとっては「
持続性」という要素はとても大きかったです。そこでは(潜在的な)読み手、執筆者(石黒さん)、編集者さん、仲間などの漠然とした「
空間」があるので、やはり幾ら忙しくてもちゃんとその場に戻れるという安心感のようなものがあります。
これは特に何か仕事をしながらも同時にいろいろ新しいことにチャレンジしたいという意欲を持っている人にはとても好適な環境なのではないでしょうか?特に今回のように石黒さんという執筆者および井上さんという編集者との共同作業の部分がとても大きかったので、そこではmixiというプラットフォームは欠かせなかったように思います。
そして、次に期待したいのは2と4のパート。まるで認知されていない新しいコンテンツ(プロダクト)が最初の発火点としてセグメントされたコミュニティのなかで受け入れられ広がっていくという「
スパイラル」の部分です。ただ、これは上の箇条書きでも触れたように、使いようによってはマイナスの効果に繋がることもありますし、定量的に把握しづらい領域なので、まだまだこれからのように思います。
で、「
ロングノーズ」論で肝心では?と、思っていることの中心も上の2点に関わることだと思っています。
1)
時間をどう使うのか?
時間という代替の利かないリソースをいかに調整して配分するのか?のひとつの解がロングノーズだと思います。パラレルに多様な仕事を進めていくためのプラットフォームとしてのmixiはロングノーズの必需品かも知れません。
2)
参加者を巻き込んでいくこと
『
ぞりん』がヒットすれば事後フォロー的にmixiの存在がクローズアップされるでしょうが、現状はまだ未知数ですから仮説に過ぎません。
ただ、潜在読者が作品の最初の萌芽の段階からコミットできるロングノーズは、今までの製作段階がブラックボックスの出版事業に比べるとかなり風通しがいいですし、しかも参加性を帯びることで作品理解や印象が深まりますから、場合によっては強力なヒット商品製造現場になり得る可能性を秘めていると思います。
そこでは、作者の混乱だけでなく、受け止める側の自由な意見交換がありますから、その混沌そのものが作品をよりエキサイティングでユニークなものに仕立てていく(変化を及ぼしていく)可能性があります。
ただ、『
ぞりん』では、著作権の関係と解像度の問題、あとは新規性なども考え、制作後半期にはmixi上では作品発表をほとんど行っていません。
■mixiだって万能じゃない
作品のカラーとかテイスト次第ではもっとmixi上のオープンコラボレーション性の発揮できるシチュエーションもあるような気がしています。ただ、mixi自体の
1)
コラボレーション機能のプアさ(grooveなど本格ツールを一度でも使ってしまうと戻れないですね)
2)
アルバム機能のプアさ(解像度や画質だけでなく検索性などを考えるとまともに使い得ない気がします)
3)
クラスファイ機能のプアさ (1とも関わるのですが、マイミクとその他というカテゴライズしか出来ないので、「編集関係者」とか「画像制作関係者」とか、ひょっとすると細かくグループ分けしてマネージしないと情報の漏洩や権利関係に処理などで問題があるようなケースもあるように思います)
機能が複雑するぎるのは問題ですが、もう少し何とかなりそうです(クローズドのコミュもあるのですが、これは本当に使いづらいです)。
■これからのmixiパブリッシング
・出版社のみなさんへ
mixiは本当にユニークなコンテンツの宝庫だと思います。ブログと違ってコラボレーションに適していますし、バズマーケティング的な販促方面の活用も比較的始めやすいので、今後も面白い本がどんどんmixiから誕生することと思います。
・開発者・製作者・執筆者・表現者のみなさんへ
mixiは使いようによっては非常に強力なプレゼンテーションツールになりますし、ロングテールだけでなくロングノーズ的な「
細切れの時間でも有効活用して、大勢で何かを作り上げていく」しかも「
そのスペース自体が制作した商品を世の中に広めていくツールとしても機能する」というパワフルな現場だと思います。
ですので、
「アイデアを公開し」「仲間を募り」「共同制作し」「ファンを集結させ」「新しい商品を世に問う」ことはちょっとした思い付き、ちょっとした探究心だけですぐにチャレンジできます。
この「
始めやすさ」は同時に「
辞めやすさ」にもつながりますので、若干諸刃の刃の面もあろうかと思いますが、案外その「辞めやすさ」があることこそ、むしろヘンな党派性や閉鎖性を無くしたり、あるいは安易な考え落ちだけで走ってしまうことへの抑止にも繋がるかもしれません。駄目なら駄目ってコトが早くに分かりますし、軌道修正やプロジェクトの解散も決定は早いほうがいいですからね。
以上が前編です。続く後編では、もう少し
ロングノーズ論を深めてみたいと思います。